ほんの足跡

暮らしの中で出会った本を一冊ずつ📚

教養のある人生の方が面白い──『読書する人だけがたどり着ける場所』齋藤孝

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『読書する人だけがたどり着ける場所』 著:齋藤孝(SBクリエイティブ)

ネットを開けば、知りたいことはたいてい調べられる。そんな時代に、あえて本を読む意味はどこにあるのか。そんな問いを抱えたまま、この本を手にとった。

浅い読書、深い読書

齋藤孝が語る「浅い読書」と「深い読書」の違いを追いながら読んでいくと、自分がこれまでどんな読み方をしてきたかを、静かに振り返らされる。ページを進めるうちに、古典や文学への言及が増えていき、その度に、まだ読んでいない本の名前をメモしたくなる。特に宮本武蔵の『五輪書』の章に差し掛かったところで、思わず手が止まった。音楽をするうえでも参考になりそうだと感じ、次に読みたい本がひとつ増えた。こうして読みながら気になる本が増えていくこと自体が、この本の効き方なのだと思う。

古典と教養がひらく面白さ

本書の軸にあるのは、教養のある人生の方が面白いという一貫した視点だ。古典や文学の素晴らしさが、押しつけではなく、これからの読書を楽しみにさせる形で語られている。浅い読書と深い読書、その違いを知ることで、これまでの自分の読み方を否定されるのではなく、次の一歩を示されているような感覚があった。読書という営みそのものが、少しずつ輪郭を変えていくような読後感だった。読み終える頃には、いままで以上に「深い」読書ができるはずだという実感が、静かに残っていた。

新書として生まれた一冊

『読書する人だけがたどり着ける場所』は、SBクリエイティブのSB新書として、2019年1月に刊行された。電子版では192ページ、EPUB形式で配信されており、通勤の合間などにも読み進めやすい一冊だ。著者の齋藤孝は、教育学や日本語表現に関する著作を多く手がけている人物として知られており、本書もその延長にある一冊といえそうだ。新書という手に取りやすい形であることも、読書からしばらく距離があった人にとって、入り口になりやすいのかもしれない。

選ぶことは、影響の輪を広げること

教養のある人生の方が面白いという言葉は、『7つの習慣』の「主体的である」という考え方と、静かに響き合う。何を読むかを自分で選ぶことは、関心の輪を広げるだけでなく、影響の輪を少しずつ広げていくことでもあるのかもしれない。ネットで情報を得るだけでは届かない場所に、読書という選択が連れて行ってくれる。そう思うと、二週間に一冊という、いまのペースにも、静かな意味が宿るような気がした。

読書の入り口に立つ人へ、すでに本を積んできた人へ

いままであまり読書をしてこなかった人にも、これまでたくさんの本を読んできた人にも、この本はやわらかく寄り添ってくれる。読書の入り口に立つ人には、次に開くべき一冊への道しるべになるだろうし、すでに多くの本を読んできた人には、自分の読み方をもう一段深くするための視点を手渡してくれる。読書量の多寡にかかわらず、開くたびに何かしらの参考になる一冊だと思う。

読み終えたとき、次に読みたい本の名前が、いくつも増えていた。それだけで、この本を読んだ意味はあったのだと思う。

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その正義の影に、彼女がいた──『イノセント・デイズ』早見和真

『イノセント・デイズ』著:早見和真(新潮社)

最初にこの本を手に取ったのは、放火殺人事件の犯人として死刑判決を受けた女性を描いた、長編ミステリーだと知ったからだった。推理小説やミステリーが好きな人にはおすすめだと聞いていたこともあり、そのまま頁を開いた。

証言が積み重なっていく

読み進めるほどに、いろんな境遇が重なり合っていく。放火殺人事件の犯人として死刑判決を受けた女性をめぐって、メディアは都合よく、面白いように事件を報じ、証人たちもまた、自分の記憶や言葉で事件を語っていく。ページを追うごとに、その報道と証言の一つひとつが積み重なり、彼女という人物の輪郭を、少しずつ作り替えていくように読めた。誰か一人の言葉ではなく、無数の言葉が寄り集まって一人の人間の像を作ってしまう。その怖さと、目を離せなくなる感触を、同時に抱えながら読み進めた。

それぞれの正義の陰で

友情、絆、恋心、プライド。どこにでもいそうで、それでも個性的な登場人物たちには、それぞれの正義があった。誰もが自分の正義を守ろうとしていて、その影に、いつも彼女がいた。読み終えて残るのは、事件の真相そのものより、その正義たちがどうして彼女を追い込んでいったのか、という感触だった。誰かを断罪する言葉の裏には、たいてい、その人自身を守りたい気持ちがある。そのことを、物語の中の一人ひとりが、静かに教えてくれるように感じた。

刊行から映像化まで

『イノセント・デイズ』は、早見和真による長編ミステリーで、「小説新潮」に連載されたのち、加筆修正を経て二〇一四年八月に新潮社から単行本として刊行された。二〇一五年には第六十八回日本推理作家協会賞の長編及び連作短編集部門を受賞している。のちに新潮文庫として文庫化もされ、二〇一八年にはWOWOWの連続ドラマWとしてテレビドラマ化された。続編やシリーズものではなく、一つの物語として完結している点も、この作品の静かな強さのように思う。

共同体感覚という視点

人生には、誰かに裏切られて傷つくことも、必要とされて喜ぶことも、良くも悪くも数えきれないほどある。それでも生きて、生き続けるだけで、必要としてくれる人たちと共にいられる。それは、アドラー心理学が言う共同体感覚に近いのかもしれない。誰かに認められるために生きるのではなく、ただ生き続けることそのものが、誰かとのつながりを保つことになる。物語の中の彼女を追いながら、自分の日々にもそういう視点があってもいいのだと、静かに思わされた。

こんな夜に開いてほしい

推理、ミステリー小説が好きな人には、まっすぐにおすすめしたい一冊だと思う。事件の謎を追う読み方もできるし、その周りにいた人たちの正義の重なりを追う読み方もできる。誰かに裏切られたことがある人、誰かに必要とされて救われたことがある人。そのどちらの経験も抱えている人には、きっと、どこかのページで、自分の日々と重なる場所が見つかるはずだ。

また開きたくなる長編だった。

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すべての関わりに、最良の別れを ──『幸せになる勇気』岸見一郎・古賀史健

『幸せになる勇気』著:岸見一郎・古賀史健(ダイヤモンド社)


「すべての出会いとすべての対人関係において、ただひたすら『最良の別れ』に向けた不断の努力を傾ける」。

この一節に出会ったとき、ページをめくる手がとまりました。
いま、自分は不断の努力ができているだろうか。
そう自問させられて、背筋が伸びるような感覚がありました。


前作『嫌われる勇気』から3年。
アドラーの教えに感化されて教師になった青年が、ふたたび哲人のもとを訪れるところから物語は始まります。

けれどその表情は、3年前の晴れやかさとはまるで違っていて、
「アドラーを捨てるべきではないか」という苦悩を抱えている。
その切実さが、読んでいるこちらの胸にもじわりと伝わってきます。

前作と同じく、哲人と青年の対話で進んでいくから、
むずかしいはずの話が、自分のことのように入ってくる。
その読み心地は変わらないのに、問いかけはずっと深い場所に届いてきます。


前作が「自分をどう見つめるか」を問う本だったとすれば、
今作は「他者とどう関わるか」に踏み込んでいく一冊です。

愛すること。尊敬すること。信頼すること。
それらの言葉が、哲学の用語としてではなく、
日々の暮らしのなかで「どう生きるか」という問いとして、静かに置かれていきます。

とくに印象的だったのは、「尊敬」の捉え直しです。
尊敬とは、すごい人へのあこがれではなく、その人のありのままを認めること。
この一節を読んだとき、自分がこれまで「尊敬」だと思っていたものが、
少しだけ違っていたことに気づかされました。


読みながら何度も思い出していたのは、
「7つの習慣」の第2の習慣──「終わりを思い描くことから始める」という考え方でした。

「最良の別れ」を思い描きながら、いまこの瞬間の関わりを大切にする。
それは、出会いのゴールを「うまくいくこと」に置くのではなく、
「悔いなく手を離せること」に置き直すということなのだと思います。

アドラーの言う「課題の分離」が、他者との距離を適切に保つための知恵だとすれば、
「最良の別れ」は、その距離のなかでどう向き合うかという、
もう一歩先の姿勢を示してくれているように感じました。

前作の「課題の分離」で少し心が楽になったあと、
「では、分離したうえでどう関わればいいのか?」と戸惑っていた自分にとって、
この本は、その問いにそっと応えてくれた一冊でした。


人との距離に迷うとき。
大切な関係をあらためて見つめ直したい夜に。
あるいは、前作『嫌われる勇気』を読んで「本当にこれでいいのだろうか」と立ち止まった方に。

急がなくていい本です。
一章ずつ、自分のペースでページをめくってほしい一冊です。

いつか来る別れのために、いまの関わりを丁寧に重ねていく。
そんな静かな覚悟を、この本はそっと手渡してくれました。

 

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「いま、ここ」を生きるという、いちばんやさしくて難しいこと──『嫌われる勇気』岸見一郎・古賀史健

「いま、ここ」を生きるという、いちばんやさしくて難しいこと──『嫌われる勇気』岸見一郎・古賀史健


『嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え』 著:岸見一郎・古賀史健(ダイヤモンド社)


「人生における最大の嘘、それは『いま、ここ』を真剣に生きないこと」。

この一節に出会ったとき、ページをめくる手がふと止まりました。 過去の後悔を引きずったり、まだ来ていない未来を不安に思ったり。そんなふうに「いま」から目を逸らしている自分に、静かに、でもはっきりと気づかされたからです。


本書は、アドラー心理学に精通する哲学者と、悩みを抱えた青年との対話で物語が進んでいきます。読み始めると、まるで自分がその青年になったような感覚になります。「本当にそんなことが可能なのか」「きれいごとではないのか」と反発しながらも、哲学者の言葉にじわじわと心を動かされていく。その温度感が、読んでいてとても心地よいのです。

対話の中で語られるのは、トラウマの否定、課題の分離、共同体感覚、そして承認欲求との向き合い方。どれも一見すると厳しい言葉に聞こえるけれど、読み進めるうちに、それは「自分の人生を自分で引き受けていいんだよ」という深いやさしさなのだと感じるようになりました。


本書は2013年にダイヤモンド社から刊行され、「勇気の二部作」として続編『幸せになる勇気』とともに世界累計1000万部を超えるベストセラーとなりました。心理学者アルフレッド・アドラーの思想を、日本のアドラー心理学の第一人者である岸見一郎氏と、ライターの古賀史健氏が対話篇という形でわかりやすく紐解いた一冊です。アドラーはフロイトやユングと並ぶ心理学の三大巨匠でありながら、日本ではこの本が出るまであまり知られていなかった存在でした。


この本を読んで強く心に残ったのは、「目的論」という考え方です。人は過去の原因に縛られているのではなく、いまの自分が何らかの目的のためにその感情や行動を選んでいる。そう捉え直すだけで、家族や周囲との関係で感じていたもやもやが、少しずつほどけていくような感覚がありました。

「課題の分離」もまた、日々の暮らしの中で何度も立ち返りたくなる考え方です。相手がどう思うかは相手の課題であって、自分の課題ではない。そう線を引けるようになると、誰かの言葉に必要以上に揺れなくなります。これはスティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』でいう「影響の輪」の考え方にも通じるものがあります。自分が変えられることに集中する。変えられないことには、静かに手を放す。どちらの本も、自分の内側にある「軸」を見つめ直すきっかけをくれるように感じています。


誰かの評価や期待に応えることに疲れてしまったとき。自分がどう生きたいのか、ふとわからなくなった夜。そんなときにそっと手に取ってほしい一冊です。声高に励ましてくれるわけではないけれど、「あなたはあなたのままで、いまここから始められる」と、静かに背中を押してくれます。


読み終えたあと、本を閉じてしばらく動けませんでした。 特別なことは何も起こらない。けれど、自分の暮らしをもう少しだけ丁寧に生きてみようと思える。そういう余韻の残る読書でした。


 

 

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誰かを支えることが、自分の支えになる──『かずをはぐくむ』森田真生

誰かを支えることが、自分の支えになる──『かずをはぐくむ』森田真生

『かずをはぐくむ』
著:森田真生(福音館書店)


「たがいに支え合う喜びを分かち合えること。それこそ、共に生きていく上での支えだったのだ」。

妻に旅へ行ってもらった日を振り返るくだりで出会ったこの一節に、しばらく手が止まった。
自分は、妻や息子たちの支えになれているだろうか。支えることを、喜びとして受け取れているだろうか。
問いかけというよりも、胸の奥をそっと確かめるような感覚だった。


独立研究者である森田真生さんが、「数」の話を通して、息子や家族が世界とどう関わり、どう支え合って生きていくかを見つめた一冊。数学の本というよりも、ひとりの思想家が、息子たちと暮らす日々の中から思考の芽を拾い上げていくような読書体験だった。

3歳と0歳だったきょうだいが、8歳と5歳になるまでの5年間。福音館書店の月刊誌「母の友」での連載をまとめたもので、数のない世界に生まれた子どもたちが、少しずつ数と出会い、世界を広げていく過程が、森田さんの温かいまなざしで綴られている。画家・西淑さんの挿絵がそこに寄り添うように添えられていて、ページをめくるたびに、どこかほっとする空気が流れていた。

印象に残ったもう一つの場面がある。「旅人の特権」について書かれた一節だ。

「子どもの心は旅人のようだと思う。彼らとの対話はいつもそれ自体が一つの旅だ」。

この言葉を読んだとき、自分もかつては旅人のように全国を飛び回っていたことを思い出した。あのときの、まだ見ぬ場所や人に心を開いていた感覚。子どもたちとの会話の中にも、同じような「旅」があるのかもしれない。息子たちの問いかけや発見のひとつひとつに、まだ知らない景色が広がっている。そう思えるようになったことが、この本を読んで得た大きな気づきだった。


アドラー心理学には「共同体感覚」という考え方がある。他者は競争相手ではなく、ともに生きる仲間であり、他者への貢献を通じて自分の居場所を見出すという考え方だ。森田さんが綴った「支え合う喜びを分かち合える」という言葉は、まさにこの共同体感覚そのものだと感じた。

家族を支えること。それは義務ではなく、自分がここにいてもいいと思える根拠になる。アドラーの言葉を借りれば、「貢献感」こそが幸福の本質だということになるだろう。

また、「7つの習慣」の第5の習慣「まず理解に徹し、そして理解される」とも重なる部分があった。子どもの心を旅人に喩えた森田さんのまなざしは、まず相手の世界を理解しようとする姿勢そのものだ。教えるのではなく、学び合う。大人の正解を押しつけるのではなく、子どもが歩んでいる旅路にそっと同行する。その姿勢に、自分も息子たちとの向き合い方を静かに問い直させられた。


誰かと生きること、そして日々に小さな「旅」を見つけていくこと。

子育てをしている方、家族との時間にふと立ち止まりたくなった方に手にとってほしい。数学が苦手でもまったく問題ない。ここにあるのは、暮らしの中にある発見と、支え合うことの温もりについての記録だから。

読み終えたいま、妻や息子たち、家族の時間をこれからも大切にしていきたいと、静かに思っている。


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自分の時間を、何のために使うのか──『人生の経営戦略』山口周

 

自分の時間を、何のために使うのか──『人生の経営戦略』山口周

『人生の経営戦略──自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』
著:山口周(ダイヤモンド社)


限られた時間を、何のために、誰のために使うのか。

この本を手にとったとき、正直なところ「経営戦略」という言葉の硬さに少し身構えた。けれど読みはじめてすぐに、その印象は静かに解けていった。

印象に残った言葉がある。

「行動が適切に変われば、結果も変わります。結果がかわることで、最終的に『意識が変わる』ことを目指す」。

意識を変えようとするのではなく、まず行動を変える。その結果として意識が変わっていく。この順番が、読んでいてとても腑に落ちた。ふだんの暮らしの中で「もっとこうしなければ」と自分に言い聞かせることがある。でもそれは、意識から変えようとしているから苦しくなるのかもしれない。まずは小さな行動をひとつ変えてみる。その積み重ねが、いつか自分の内側にまで届くのだと思えた。

そしてもうひとつ、深く心に残った一節がある。

「学習とは、経験を通じて自分の信条・習慣・思考様式を変化させ、同じインプットに対して、より良いアウトプットを出せるようになること」。

学習というと、本を読む、知識を詰め込む、というイメージが先に立つ。けれどこの本が語る学習は、もっと生活に根ざしたものだった。同じ出来事に出会ったとき、以前とは違う反応ができるようになること。それが、本当の意味での学びなのだと。


この本を書いた山口周さんは、電通やボストン コンサルティング グループ(BCG)などを経て独立した研究者であり著作家だ。「人文科学と経営科学の交差点」をテーマに活動されていて、哲学を学んだ背景を持つ方でもある。だからだろうか、経営の言葉を使いながらも、語り口はどこか哲学的で、人間の内面に寄り添うようなあたたかさがある。


読みながら、7つの習慣の「第2の習慣──終わりを思い描くことから始める」を思い出していた。山口さんが語る「人生を超長期のプロジェクトとして捉える」という視点は、まさに自分の人生のゴールを思い描き、そこから逆算して今を生きるという姿勢に重なる。効率よくこなすことではなく、自分の価値観に照らして「これでいいのか」と問い続けること。その問いを持つこと自体が、すでに人生の経営なのかもしれない。

アドラー心理学で語られる「課題の分離」にも通じるものを感じた。他人のモノサシではなく、自分のモノサシで人生を測る。山口さんも本書の中で、バランス・スコア・カード(BSC)の章で「自分のモノサシを持つ」ことの大切さに触れている。他人の評価軸に振り回されるのではなく、自分にとって本当に大事なことは何かを見つめる。それはまさに、自分の課題と他者の課題を分けて考えるということと地続きだと思った。

育児の日々の中で、同じような場面でイライラしてしまう自分がいる。でもこの本を読んでから、「同じインプットに対して、より良いアウトプットを出す」という学習の定義を、育児にも当てはめて考えるようになった。昨日と同じ出来事が起きたとき、ほんの少しでも違う対応ができたなら、それはもう立派な学びなのだと。そう思えるだけで、日々が少しだけ軽くなった。


「効率よく過ごす」よりも、「自分の価値観に合う時間を過ごす」。
そんなふうに、静かに問いを手渡してくれる一冊だった。

人生の舵を誰かに預けてしまいそうなとき、ふと立ち止まって自分に問いかけたいとき。そんなときにそっと開いてほしい本。

自分の人生を、自分で考えて生きていく。
その最初の一歩は、案外やさしいところにあるのかもしれない。

 
 
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まっすぐに歩いた道の先に灯る、やさしい光──『成瀬は都を駆け抜ける』宮島未奈

まっすぐに歩いた道の先に灯る、やさしい光──『成瀬は都を駆け抜ける』宮島未奈


『成瀬は都を駆け抜ける』 著:宮島未奈(新潮社)


みんなは『極める』というところに注目するのだが、わたしはそこに至る道が重要だと思っている。

この言葉を読んだとき、胸のどこかがすっと軽くなった。

結果や到達点にばかり目が向きがちな日々の中で、成瀬あかりは「歩くこと」そのものに価値を見出している。極めたかどうかではなく、そこに向かって足を動かしたという事実。その過程にこそ意味があるのだと、彼女はまっすぐな言葉で語りかけてくる。


成瀬シリーズの完結編となるこの一冊は、膳所高校を卒業し京大生となった成瀬あかりの新しい日々を描いている。舞台は大津から京都へと広がり、個性豊かな人たちが次々と「成瀬あかり史」に名を刻んでいく。

読み始めたときは、いつもの成瀬だなと思っていた。変わらず自分の信じる道を歩いている姿に安心しながら、軽やかに読み進めていた。

けれど、読み終えたあとに残ったものは、想像していたものとは少し違った。

まさかこの本で涙が出るとは思わなかった。

成瀬あかりが照らし続けてきた周りの人たちが、本当にあたたかくて。成瀬のそばにいた人たちが見せるやさしさやぬくもりに触れたとき、どこか固まっていた心がすっとほころんだ。成瀬は声を荒げることもなく、誰かを正そうとすることもない。ただまっすぐに自分であり続ける。その姿が、静かに誰かの背中を押していく。


『成瀬は天下を取りにいく』が2024年本屋大賞を受賞し、続篇『成瀬は信じた道をいく』を経て、この完結編が届けられた。宮島未奈さんのデビュー作から始まった物語が、全三作で堂々と幕を閉じる。シリーズ累計は200万部を超えている。


成瀬の生き方を見ていると、アドラー心理学でいう「課題の分離」を自然体でやっている人だなと感じる。

周りが注目すること、世間が「すごい」と言うこと。それと、自分が本当に大切だと思うこと。成瀬はこのふたつをはっきりと分けている。他者の評価に振り回されず、自分の課題に集中する。それは決して冷たいことではなく、むしろとても誠実な姿勢だと思う。

そしてもうひとつ、7つの習慣の「主体的である」という第一の習慣ともぴったり重なる。成瀬は、外側の状況や他人の反応ではなく、自分の内側にある信念を起点にして行動する。風が吹いても揺るがない、ぶれない軸のようなものが彼女の中にはある。

さらに言えば、成瀬が周囲の人たちを自然と照らしているのは、アドラーの「共同体感覚」そのものだと思う。自分のために生きているようでいて、その生き方が結果として周りの人の心をあたためている。貢献しようとして貢献しているのではなく、自分らしくあることが、そのまま誰かの力になっている。


自分の軸がぶれそうなとき。周りの声や評価が気になって立ち止まりそうなとき。この本は、静かだけれど力強い励ましをくれる。

「自分が自分でいること」を大切にしたいすべての人に、読んでほしい一冊。


シリーズが終わると思うと少し寂しいけれど、成瀬の姿を最後まで見届けられたことがうれしくて、誇らしくて。読み終えたあともしばらく、胸の奥にやさしい灯りが残っていた。

成瀬、ありがとう。

 

 

 

 

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